0.きっかけ

 初めて中田がいずみホールに行くので、どの様な施設かホームページで調べてみました。すると、運営しているのが(財)住友生命社会福祉事業団という社会福祉に取り組んでいらっしゃる団体だということ、「車椅子をご利用の方へ」というページがあったこと、チャレンジドへの対応の研修を定期的に行なっているレセプショニストのことが書いてあり興味を持ちました。
 コンサートが始まる前にレセプショニストの方に取材の依頼を伝えて欲しいとお願いすると、幕間にレセプション・マネージャーの方が座席まで来ていただいたので趣旨をお話すると、その場で取材を了承していただき、後日取材させていただきました。



1.チャレンジドのお客さまに対する取組み、姿勢について

(1)フロアの構造
 入口が地上2階にあり、そこへ上がるためのエレベーターも少し離れているため、会場近くまで来ても入口がわかりにくい。また、入場してからも段差が多いので、チャレンジドにとっては利用しにくい施設。また、階段や座席周辺の段差の幅が一定ではないため、注意を要する。
(2)研修
 『ハード面での対応が不十分なので、自分たちで何かできるのではないか』といつしか職員やアルバイトのレセプショニストの共通の想いになっていました。
 年に1回のペースで、チャレンジドへの対応のための研修会を職員も含めて行っています。方法を知らないまま誘導してケガやご迷惑をおかけしてしまうといけないので始めました。研修の内容は、視覚障害者と車椅子を利用されている方への誘導方法や車椅子と座席に移動する場合のサポートなどでした。
(3)チャレンジドの来店者数
 1公演平均、2〜3人。
(4)現時点での対応
  • 年1回、職員やアルバイトのレセプショニストを対象にチャレンジドへの対応のための研修会を行っている。
  • 年1回『夢コンサート』を催し、チャレンジドとサポートしている人たちを招待している。
  • 利用しにくい施設だということを理解した上で人的配置や誘導方法などを工夫している。
  • 指定席ではない限り、予約の時に申し出があれば、通路に面した席や座りやすい席を用意する。また変更可能な場合は、当日レセプショニストが声かけをして通路に面した席または座りやすい席を用意できるという事を伝えている。
  • 来場時、チケットの半券をもぎる際に座席を確認し、何かあった場合すぐに対応できるように全員で情報を共有する。
  • お困りの様子であればすぐに声をかけられる体制を取っている。
  • 座席付近では飲食禁止だが、研修で「水分補給が必要な方もいらっしゃる」と教わり、チャレンジドには一呼吸おいてから行動するようにしている。
  • ホームページには『車椅子をご利用の方へ』と題したページを設け、情報提供を行なっている。


2.夢コンサート

 夢コンサートは、今年(2005年)で3回目になります。
 開館以来、株式会社としてホールを運営していましたが、2001年より現在の財団法人社会福祉事業団の一員として新たなスタートを切りました。その中で、社会福祉事業団として、またコンサートホールとしての独自の取り組みとして何かできることはないか、というところからスタートしました。社会福祉団体などに相談し、障害のある方々とサポートしている人たちのためにコンサートを作ろうじゃないか、ということで始まった企画です。演奏はあるオーケストラに1回目から協力して頂いています。
 招待している方は視覚障害の方が圧倒的に多いのですが、車椅子の方、知的障害の方もいらっしゃいます。希望される方が年々多くなってきているのですが、座席数には限りがありますのでお断りしなければならない場面が出てきました。かといって、いろんな制約もありますので「2回公演」というわけにもいかず…、というジレンマがあります。
 夢コンサートに来られた方から「日ごろ、行きたくても周りに迷惑をかけるのではないか、等の精神的なバリアがあってなかなか行けない。そういう意味でこの様な障害のある人のためのコンサートだと大喜びで行ける」という声を頂戴しました。来られた方の喜ぶ姿を見て毎回涙し、こういう仕事をして良かったと、思う瞬間です。可能な限り続けていきたいですし、徐々に成長させていこうと思っています。
 今回はその第一歩として、数は十分ではありませんが骨伝導スピーカーを客席に設置しました。これはパイオニアさんが開発されたのですが、もともとは聴覚障害者のために作られた物ではなく、臨場感のあるサウンドを楽しめる「商品」として開発された物です。現在は製造は終了されていて、販売目的ではなく25台所有されていて、今回のコンサートのような趣旨のイベントに貸し出しをされています。今回は運搬や設置にかかるものも含めて費用は無償でした。しかも、設置するのは「社団法人全国重度障害者雇用事業所協会(全重協)」に加盟されている事業所の社長さんたちで、全重協が窓口となって集まって頂き、ボランティアとして作業をして下さいました。すばらしい方たちばかりで、感動しました。
 骨伝導スピーカーを利用された方は本当に喜んで頂いて、特に後天的に聴覚障害者になられた方は「音がよみがえってくる!」と感動されていました。この感動は私たち聞えている者には計り知れない、まさに想像を絶するものでしょう。
 つい最近、夢コンサートに協力して頂いている方から、普段コンサートにこられる障害者は介助者の料金も全て負担している、ということ聞き、驚きました。それまでは障害者料金が必要だ、という認識は余りありませんでした。そのお話を伺ってからは、個人的には検討したいと思っています。「障害者割引制度」を希望される方はどのくらいかチケットセンターに確認したところ、年間何件かはあるということでした。



3.障害者席

 障害者席は2種類。(画像をクリックすると座席表が拡大されます)
 なお、A〜G列まではフラット、H〜W列までは階段になっています。



4.今後の課題



 職員やレセプショニストは、ハードの弱点を熟知した上でそれを補うためにソフトである人的サポートで、何をしなければいけないかを心得ているように思われます。
 また、研修を毎年することで何がバリアになっているかを再確認し、できることがあれば改善されているようです。というのも、今夏に行なわれた研修の時に多目的トイレの手洗い場の蛇口が手動になっていて「考えられない!」と指摘され、その後すぐに改修工事され蛇口を自動化されたそうです。
 さらに夢コンサートを開催し、チャレンジドとそのサポーターたちを招待することはなかなかできることではないと思います。



データ
 いずみホール
■住所: 大阪府大阪市中央区城見1-4-70
■電話: 06-6944-2828
■チケットセンター: 06-6944-1188
■キャパ・収容人数: 821
■アクセス:
 地下鉄長堀鶴見緑地線大阪ビジネスパーク駅(4番出口) 約5分
 JR大阪環状線大阪城公園駅 約3分
 JR大阪環状線京橋駅 約8分